「歯科で食いしばりを指摘されました。」
「朝起きると顎が疲れている気がします。」
「口を大きく開けると違和感があります。」
このようなお悩みで来院される方は少なくありません。食いしばりや歯ぎしりというと、「顎」や「歯」だけの問題と思われがちです。しかし、現在の歯科医学では、食いしばりや歯ぎしりは一つの原因だけで起こるものではなく、さまざまな要因が関係すると考えられています。
以前は「噛み合わせが悪いことが原因」と考えられることもありましたが、現在ではその考えだけでは説明できないことが分かってきました。睡眠中の歯ぎしりは睡眠や脳の働きとの関係が注目されており、日中の食いしばりについても、無意識に上下の歯を接触させる習慣(TCH:上下歯列接触癖)などが関係すると考えられています。つまり、食いしばりや歯ぎしりは「顎だけ」を見ればよいというものではありません。
顎を動かす筋肉は想像以上に多くあります
顎を動かす主な筋肉には、頬にある咬筋、こめかみにある側頭筋、そして顎を前後左右へ動かす内側翼突筋や外側翼突筋があります。これらは総称して「咀嚼筋」と呼ばれ、食事をする時だけではなく、無意識の食いしばりや歯ぎしりの時にも働いています。特に咬筋は、人の身体の中でも非常に大きな力を発揮できる筋肉の一つです。また、側頭筋はこめかみから下顎まで広く付着しているため、この筋肉が緊張すると、こめかみの重だるさや頭痛として感じられることもあります。
食いしばりで顎だけではなく、頭や首、肩までつらく感じる方がいるのは、このような筋肉のつながりも一つの理由と考えられます。
顎と首は、一つのチームとして働いています
顎関節と首、特に第一頚椎・第二頚椎を含む上位頚椎は、それぞれ独立して働いているわけではありません。例えば、大きく口を開ける動作では、下顎だけが動いているように見えますが、実際には頭部や首もわずかに動きながら協調しています。この連携によって、顎は滑らかに開閉することができます。また、頭の重さは成人で約4〜6kgあると言われています。この重さを支えているのが頚椎と首の筋肉です。顎を動かす咀嚼筋も頭蓋骨や下顎骨に付着しているため、顎と首は解剖学的にも機能的にも密接な関係があります。そのため、首の筋肉が緊張していたり、頚椎の動きが硬くなっていたりすると、顎の動きにも影響が及ぶことがあります。
反対に、食いしばりによって咀嚼筋が長時間働き続けると、頭を支える首の筋肉にも負担がかかり、首こりや肩こりを伴うことも少なくありません。近年の研究でも、顎関節症のある方では、首の痛みや頚部の動きの制限を伴うことが多いと報告されています。一方で、「首が原因だから顎関節症になる」「首を治せば必ず食いしばりが改善する」といった単純な関係ではないことも分かっています。
現在は、顎関節と頚椎がお互いに影響し合う関係にあると考えられています。
当院が大切にしていること
当院では、食いしばりや顎関節症を「顎だけの問題」とは考えていません。もちろん、歯や噛み合わせ、顎関節の評価は歯科の重要な役割です。一方で、首や肩の筋肉の状態、姿勢、身体の使い方、生活習慣なども、お身体全体を考えるうえで大切な情報になります。
YNSA(山元式新頭鍼療法)を行う際も、症状のある顎だけを見るのではなく、頚部の動きや筋肉の緊張、お身体全体の反応を確認しながら施術を進めています。同じ「食いしばり」という症状でも、生活環境や身体の状態は一人ひとり異なります。だからこそ、その日の状態を丁寧に確認し、その方に合わせた施術を考えることを大切にしています。
日常生活でできること
食いしばりは、無意識に行われていることが多いため、「やめよう」と思っても簡単に改善できるものではありません。まずは、「今、上下の歯が触れていないかな」と気付くことから始めてみてください。本来、安静にしている時は上下の歯は軽く離れている状態が自然です。
パソコン作業やスマートフォンの操作、車の運転中など、一日の中で何度か意識するだけでも、自分の癖に気付くきっかけになります。また、長時間同じ姿勢を続けず、首や肩を軽く動かすことも、お身体全体の緊張を和らげる一助となります。
まとめ
食いしばりや歯ぎしりは、歯や顎だけではなく、睡眠、生活習慣、筋肉の状態など、さまざまな要因が関係すると考えられています。さらに、顎関節と上位頚椎は解剖学的・機能的につながりがあり、お互いに影響し合いながら働いています。そのため、顎だけを見るのではなく、お身体全体の状態を確認することも大切です。
当院では、顎の症状だけに目を向けるのではなく、頚部の動きや姿勢、身体全体のバランスを確認しながら、一人ひとりに合わせた施術をご提案しています。「食いしばりが気になる」「顎だけでなく首や肩のつらさもある」という方は、一度お身体全体の状態を見直してみることも大切かもしれません。